まず結論は?
高性能なGPUやそれを載せたサーバーを海外へ売る・送るときは、日本の外為法(外国為替及び外国貿易法)と、米国のEAR(輸出管理規則)の両方を確認する必要があります。 EARは米国で作られた品物に、日本など米国の外へ出た後もかかり、第三国から別の国への「再輸出」も対象です。NVIDIAは、A100・H100・RTX 4090などが2023年10月の米国規則で許可の対象になったと公表しています。2026年1月の見直し後も、米国以外から中国・マカオへの再輸出は原則として許可されない扱いが続いています。この記事は一般的な解説で、個別の取引は経済産業省や専門家に確認してください。
EARとは何で、日本の会社にも関係する?
EAR(Export Administration Regulations)は、米国商務省の産業安全保障局(BIS)が運用する輸出のルールです。BISは「再輸出」を、EARの対象の品物をある外国から別の外国へ送ることと説明しています。EARの対象になる条件の一つが「米国で生産された、または米国が原産であること」で、BISの説明からは、米国原産の品物は米国を出た後もEARの対象であり続けると読めます。
つまり、日本の会社が日本国内で仕入れた米国製のGPUでも、それを海外へ売れば「再輸出」としてEARが関係する可能性があります。
どのGPUが規制の対象になっている?
NVIDIAが2023年10月17日に米国証券取引委員会(SEC)へ提出した書類によると、同日の米国規則で次のようになりました。
- 対象製品: A100、A800、H100、H800、L40、L40S、RTX 4090など、一定の性能を超えるGPU。これらを1つ以上載せたシステム(DGX、HGXなど)も含む。
- 分類: ECCN(輸出規制の分類番号)3A090と4A090。
- 対象の国: 中国と、国グループD1・D4・D5(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ベトナムなどを含む)。
- 対象の相手: D5(中国を含む)に本社や最終親会社がある相手への輸出も対象。
型番ごとの状況は、セミコンチャートの各型番ページの「輸出規制」欄にも載せています(公式に確認できたものだけ)。
2025年以降、何が変わった?
- 2025年5月13日: BISは、2025年1月15日に出された「AI拡散規則(AI Diffusion Rule)」を取り消すと発表しました。同時に、横流し(ダイバージョン)の事例があるとして、マレーシアとタイ向けの先端チップに許可の要件を加える方針も示しました。
- 2026年1月13日発表・1月15日施行: BISは、NVIDIA H200やAMD MI325Xのような性能のチップについて、中国・マカオ向けの許可申請を「個別に審査する」方針に改めました。法律事務所Baker McKenzieの解説では、対象は性能の指標(TPP)が21,000未満、メモリ帯域が6,500GB/s未満のチップで、米国の供給を妨げないこと、米国の第三者機関による検査などの条件があります。
- ただし、 この見直しは米国からの輸出が対象で、ほかの国からの再輸出は原則不許可のままです(Baker McKenzie)。日本から中国へ中古GPUを再輸出する場合は、この緩和の対象外と考えてください。
日本の外為法では何を確認する?
経済産業省の説明資料によると、日本の輸出管理には大きく2つの仕組みがあります。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| リスト規制 | 法令の表(輸出令・別表第1の1〜15項)に載っていて、決められた性能を持つ品物は、輸出先に関係なく経済産業大臣の許可が必要 |
| キャッチオール規制 | リストに載っていない品物でも、大量破壊兵器などの開発に使われるおそれがあれば許可が必要。用途・相手から自分で判断する場合と、経済産業省から通知される場合がある |
輸出する品物が規制に当たるかを判定することを**「該非判定」**といいます。2025年5月28日施行の改正では、「先端ICチップ」と「先端ICチップを有する電子計算機等」がリスト規制に加わりました。
違反した場合の罰則は重く、経済産業省の資料では、刑事罰として最長10年の懲役、罰金は法人で最大10億円・個人で最大3,000万円(品物の価格の5倍が上限額を超える場合はその5倍まで)、行政制裁として最長3年の輸出禁止があります。USBメモリやメールでの技術データの持ち出し、海外からのクラウド経由の利用も規制の対象になりうるとされています。
いま規制対象の型番の相場は?(セミコンチャートのデータ)
国内と海外の相場の差は、規制で売り先が限られることの影響を受けている可能性があります。差が大きいことは、輸出してよい理由にはなりません。
中古業者は何をすればいい?
- 型番を特定し、該非判定をする。 CISTEC(安全保障貿易情報センター)は、判定する人の責任をはっきりさせ、判定書類を確実に保管するよう勧めています。
- EARの分類を確かめる。 米国原産の品物はメーカーの公表やECCNを確認します。
- 相手と用途を確かめる。 最終的に使う人(エンドユーザー)、使い道、本社の所在国を確認し、記録します。
- 不自然な点があれば止める。 相手の説明と注文内容が合わない、送り先が転々とする、などは取引を止めて専門家に相談します。
- 記録を残す。 判定・確認・やり取りの記録を保管します。
FAQ
Q1. 日本国内で中古GPUを売るだけでも関係ある? 国内の売買そのものは輸出ではありません。ただし、買い手が海外へ持ち出す予定がある場合や、相手の本社が海外にある場合は、用途と相手の確認が重要になります。
Q2. RTX 4090は一般向けなのに規制対象? NVIDIAのSEC届出で、RTX 4090は2023年10月の米国規則の対象製品として明記されています。
Q3. 2026年1月の緩和で中国へ売れるようになった? 緩和は米国からの輸出が対象で、条件つきの個別審査です。ほかの国からの再輸出は原則不許可のままとされています。
Q4. 該非判定は誰がする? 輸出する会社の責任で行います。メーカーの資料を参考にしつつ、社内で判定する人を決め、書類を保管します。
Q5. 相談先は? 日本の制度は経済産業省の安全保障貿易管理の窓口、米国の制度はBISの公開情報や、輸出管理に詳しい弁護士に相談してください。
出典
- BIS「What is a Reexport?」 https://www.bis.gov/learn-support/what-reexport
- NVIDIA Form 8-K(2023年10月17日) https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1045810/000104581023000217/nvda-20231017.htm
- BIS「Department of Commerce Announces Rescission of Biden-Era Artificial Intelligence Diffusion Rule...」(2025年5月13日) https://www.bis.gov/press-release/department-commerce-announces-recission-biden-era-artificial-intelligence-diffusion-rule-strengthens-chip
- BIS「Department of Commerce Revises License Review Policy for Semiconductors Exported to China」(2026年1月13日) https://bis.gov/press-release/department-commerce-revises-license-review-policy-semiconductors-exported-china
- Baker McKenzie「BIS Revises License Review Policy for Advanced Computing Commodities...」 https://sanctionsnews.bakermckenzie.com/bis-revises-license-review-policy-for-advanced-computing-commodities-ai-semiconductors-to-china-and-macau-when-exported-from-the-united-states/
- Covington & Burling「U.S. Commerce Department Revises License Review Policy for Exports of Certain Advanced Computing Commodities to China and Macau」(2026年1月) https://www.cov.com/news-and-insights/insights/2026/01/us-commerce-department-revises-license-review-policy-for-exports-of-certain-advanced-computing-commodities-to-china-and-macau
- 経済産業省「安全保障貿易管理について(説明資料)」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/setsumei_anpokanri.pdf
- 経済産業省「輸出貿易管理令等の一部改正の概要(令和7年)」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/seirei/20250403_gaiyo.pdf
- CISTEC「該非判定入門(Webセミナー資料)」 https://www.cistec.or.jp/service/webseminar/open/data/houjin/5001_gaihi_nyumon.pdf